イルガチェフェに重なる2つの言葉 | 香りの口承 vol.1
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幼い頃から、ひらがな・漢字・アルファベットが共存する日本語の成り立ちに惹かれてきました。
今、私たちが届けているエチオピア・イルガチェフェの豆にも、それと同じくらい深い言語的なストーリーが含まれています。
イルガチェフェという名の由来
世界最高水準の産地「イルガチェフェ」は、現地の「ゲデオ語」で「穏やかな湿地帯」を意味します(Irga=安定した、Chefe=湿地)。
標高が高く、霧が立ち込め、豊かな水源があるこの地のテロワール(生育環境)を象徴する名前です。
高度な多言語社会

そして、イルガチェフェの人々は、高度なバイリンガル社会を生きています。
・ゲデオ語(アルファベット表記): 家庭や農園で話し、チャットで愛用する「心の言葉」
・アムハラ語(ゲエズ文字表記): 公用語として、テレビや新聞、法的な出荷書類に用いる「社会の言葉」
・英語(アルファベット表記): 世界のバイヤーと繋がるための「ビジネスの言葉」
たとえば「美味しいコーヒー」は、現地では「Buna Danancha」(ゲデオ語)と呼ばれますが、公文書には「ጥሩ ቡና」(アムハラ語:トゥル・ブンナ)と記されます。
歴史が変えた「文字」の選択
なぜこれほど複雑な環境になったのか。その転機は1991年にあります。
かつてエチオピアでは、4世紀のアクスム王国以来、北部の「セム語派・ゲエズ文字」が正統な支配者の文化として君臨してきました。
南部のゲデオの人々にとって、独特な形状のゲエズ文字(ሀ, ለ, መなど)は、中央政府による「押し付けられた文化」という側面もあったのです。
1991年の政権交代後、新憲法により「民族の自決権」が認められました。
ゲデオの人々は、過去の支配の象徴だったゲエズ文字ではなく、自分たちの言葉の響きをより正確に表現できる「アルファベット」を母語の表記体系として選択します。
2つの言葉が重なるコーヒー

現在の教育現場では、小学校低学年で母語(ゲデオ語)をアルファベットで学び、同時に公用語(アムハラ語)をゲエズ文字で習得します。
産地の言葉(クシ語派・ゲデオ語)とともに土を耕し、都市の言葉(セム語派・アムハラ語)で取引され、世界各地へ運ばれるイルガチェフェのコーヒー豆。
今、私たちが目にする「Yirgacheffe」というアルファベット表記の裏側には、長い支配の歴史を乗り越え、自分たちの言葉(アイデンティティ)を取り戻した人々の誇りが宿っています。
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