近場で逃避行 | 隙間に潜る vol.1
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ひとり時間が好きなスタッフが、日常の隙間に潜り込んで回復する方法を探すコラム。
玄関のドアを開けると、少し湿った空気が流れ込んできた。
久しぶりの一人時間。
歩きたい、と思ったのも久しぶりだった。
もともと、歩くのが好きだ。
独身の頃は、気づけばとんでもない距離を歩いていた。
妊娠、出産を経て、今は1歳半の息子に合わせて行動は控えめ。
休みの日は、体力の温存という名のサボタージュで、息子と家でゆったり、バタバタ過ごして終わることが多い。
大切な幼少期、何者にも変えられない時間であると思いつつ、一人になりたい━━。
時々白目を剥きながら、おうち時間を過ごしていた。

今回の一人時間、行くあても決めずに、外へ出た。
午後の日差しを感じながら景色を眺める。
新緑の鮮やかな色と、青空のコントラストが気持ちいい。
住宅街をぐるぐる歩いていると、見覚えのある雰囲気の看板が目に入った。
木の板に、少しクラシックなフォント。
その下には、大きな英国旗。
「あ、ここだ」
電車の窓から見ていた建物が、やっと目の前に現れた。
看板と外観を何枚か写真に残した。
スコーンと温かいお茶を飲んでいる自分を、少しだけ想像する。
素敵なティーウェアとインテリアのある店内、
スコーンにはどんなジャムが添えられているだろうか。
優雅なティータイムに、思わず顔が緩む。
今日は入らない。
次の楽しみに取っておくことにする。
小さな発見を手に入れて、また歩き出す。
住宅街の中に、普通の民家が並んでいた。
その中の一軒に、「自家焙煎」と書かれたのぼりと焙煎所の看板が出ている。
奥の方から、ヴーンと低い音が聞こえてきた。
焙煎機の音だ。
聞きなれているから、すぐにわかった。
見上げると、小さな煙突。
そのあたりから、うっすらと焙煎の香りが流れてくる。
門扉にはコーヒーの産地が並び、「試飲できます」とある。
好みに合わせて焙煎してくれるらしい。
文字のフォントが渋くて、職人気質な人なのかなと想像する。
日曜日だけの焙煎所、知る人ぞ知るお店。気にはなる。
看板が出ているものの、漂うおじいちゃん家感と頑固な職人の想像をしてしまい、入る勇気がなかった。笑
今度、夫を潜入させてみよう。
そう結論を出して、いつもの帰り道を歩き出した。

玄関を開けると、散乱したおもちゃと満足げな顔の息子と、ちょっと疲れた顔の夫。
日常に戻るのを感じつつ、コーヒーを淹れながら、今日の探索の報告をする。
次は、実際に入ってみようかな。
さらなる探索と次の逃避行に心が躍った。